どことなく傷みはじめし春の家
いわゆる春愁には、このような暮らしの上の心配も入り込んでくる。「どことなく」と言うのだから、具体的に家のどこかが「傷(いた)みはじめ」たというわけではない。「どことなく」なんとなく、どこなのだかよくはわからないのだが、どこかが確実に傷んできた気配がするのだ。だから、緊急に修理する必要もないわけだが、「どことなく」不安にもなってくる。暖かい光のなかの、一見平和な環境にある「春の家」だからこそ、この漠然たる不安が際立つ。句全体の味わいとしては、しかし、「どことなく」ユーモラスだ。ここに、みずからの漠然たる不安を客観視できる作者の、したたかな腕前を感じさせられる。春愁におぼれない強さ。あるいは、春愁の甘い響きに飽きてしまった諦念が、ぽろりと、むしろ不機嫌主導でこぼれ落ちたのかもしれない。いずれにしても、単純の極にある言葉だけで、これだけのことを言えた作者の才質は素晴らしい。
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